慌ただしい日常生活の中で、ふだん私たちの意識は何に向いているでしょうか。日々きっと、時間に追われ、成果を迫られ、効率や利益はよく見えているでしょう。一方で、自分の部屋、住んでいる町、すぐに手に入るものなどにはほとんど目を留めることもないのではないでしょうか。特段注意を振り向ける必要もないのだと思い、感性を眠らせているからです。

しかし、馴染み深い光景が、時としていつもと異なる様相を帯びることがあります。住み慣れた土地をしばらく離れ戻ってきた時、町の景色はどこか違って新鮮に見えたりもするように、その時々の心情や環境が、私たちに様々な知覚をもたらします。

心のわずかな動きによって、見慣れたはずの光景が違って見えたり、別の場所の光景が重なって見えたりする。そんな、現実のようでどこか現実離れした、ふとよぎる白昼夢のような作品をここに集めました。蓋をした感性を解き放つ「呼び水」になることを願って。